AI導入

「AI導入が先」ではなく「課題が先」──PoCで終わらせない本当のAI活用

AI導入は「やること」が先ではなく、「何の課題を解決したいのか」が先です。煽りに乗ってPoCだけ量産しても、現場で使われなければ意味がありません。本当に価値を生むのは、社内に眠るノウハウや実績データを掘り起こし、それをAIに学習・参照させて“自社だけのエンジン”にすること。とくに、売上に直結するオリジナルな情報発信にAIを組み込めば、SNSやオウンドメディアをほぼ自動運転で回しながら、競合が真似できない優位性をつくれます。

Kyo42 Team

Nov 19, 2025

「AIを導入しないと取り残される」といった言葉に押されて、慌てて社内導入を決めたり、PoC(実証実験)だけやってみて、そのまま社内活用が進まず“PoCの墓場”になっている企業は少なくない。

ただ、ここで勘違いしてはいけないのは、「AIを導入しないと取り残される」というメッセージ自体が、まったくの嘘というわけではないという点である。きちんと使いこなすことができれば、AIはこれまでにないほど便利で強力なツールになる。問題は、AIそのものではなく、「どう活かすのか」が決まらないまま導入してしまうプロセスにある。

AIはきわめて汎用的なツールである。文章も画像もコードもつくれれば、調査も翻訳も相談もできる。「なんでもできる」からこそ、かえって「何に使っていいのかわからない」という現象が起きる。結果として、導入が目的化し、「とりあえず入れてみたが、現場ではほとんど使われていない」という状態に陥るのである。

本来あるべき順番は逆だ。AI導入ありきではなく、まず“解決したい課題”が起点であるべきである。既存のやり方では時間やコストがかかり過ぎている、属人化していて標準化できていない──そうした具体的な課題があり、その解決手段としてAIが最適だという結論に至ったときに、初めて導入するのが自然な流れである。「導入してから、何に使おうか」を考え始めるのは、どうしても無理がある。

AIの本質は、モデルそのものよりも、「何を学習・参照させるか」にある。言い換えれば、貴社独自のノウハウや実績、過去の資料や成功・失敗の蓄積といったものを“宝”に変える装置がAIである。紙のまま眠っている資料、フォルダの奥に埋もれているアナログなデータ、ベテラン社員の頭の中にだけ存在する経験値や勘所──こうしたものを引き出し、構造化してAIに参照させることができて、初めて本当の価値が生まれる。

もちろん、汎用的なLLM(ChatGPTなど)をそのまま使うだけなら、時間とともに自然と社内利用は増えていくはずだ。特にAIネイティブ世代の若い社員にとっては、AIはもはや特別なツールではなく、日常的に使う“当たり前の道具”である。社員の新陳代謝が進めば、汎用AIの利用率は放っておいても上がっていくだろう。

しかし、それだけでは大きな競争優位は生まれにくい。他社も同じツールを同じように使えるからである。本当に大きな価値と高い競争力を生み出すには、前述のように「社内に眠っている独自データ」を掘り起こし、AIが活用できる形にしていく必要がある。この作業には、正直かなりのエネルギーがいる。現場の協力も不可欠だし、部署横断の調整も発生する。だからこそ、腰を据えた社内プロジェクトチームを立ち上げ、本気で取り組まなければ実現は難しい。

ただ、その壁を越えた先には、強力な競争優位性が待っている。貴社だけが持つ情報は、市場において非常に高い価値を持つ可能性があるからだ。他社が真似できない知見をAIという形で社内に行き渡らせることができれば、「その会社にしかできない判断」「その会社だからこそ提供できる価値」が生まれてくる。

導入の第一歩として個人的におすすめしたいのは、「売上に直結する情報発信エンジン」としてAIを位置づけることである。ここは、業種を問わず成果につながりやすい領域である。貴社オリジナルのコンテンツを、AIを使って数分単位で大量に生成できるようになると、SNSやオウンドメディアでの情報発信を、これまでとは比べものにならない低コストで自動運転に近い状態まで持っていくことができる。

今、ユーザーが求めているのは、検索してもなかなか出てこないようなロングテールの情報、つまりニッチで具体的な情報である。「うちの業界の、この条件のとき、実際どうしているのか」「このサービスを選ぶとき、プロはどこを見ているのか」といった、生の知見こそが価値になる。そうしたニッチな情報を継続的に発信できれば、貴社はユーザーにとって“唯一無二の存在”に近づいていく。

AI導入は、目的ではなく手段である。自社の強みや経験をどう“宝”に変えるか、そのためにAIをどう使うか──そこを起点に考えれば、煽りに振り回されることなく、本当に意味のあるAI活用が見えてくるはずである。ぜひ、一歩を踏み出してみてほしい。