Cost & Value of AI

AI導入の前に知っておきたい「費用対効果」の現実

初期費用の最大ボリュームは参照データおよび学習データの整備(収集及び加工)です。ここを乗り越えれば、最強のスタッフが“電気代“相当の推論コスト中心”に近づきます。
たとえば、年収1,500万円の優秀人材をヘッドハントして500万円のコストを払うと考えれば、AIへの投資は相対的に小さいとも言えます。

Kyo42 Team

Oct 18, 2025

まず理解してなくてはならないことは、今一般的に言われているAI導入とは、生成AIの言語モデルを導入するという意味です。このベースの言語モデルの上にチャットボットやAIエージェントが実装されるわけです。つまり土台の部分です。チャットボットやエージェントはノーコードツールが大量に出回っているので、データの収集加工などの整備費用と比較すると実装コストは大きくないです。そこで、この土台を汎用品(汎用LLM)を使うのか、独自につくる(独自SLM)のかという話を、整理したのが以下の図です。

生成AI(言語モデル)導入パターンーをセキュリティとコストの2軸でマッピング

AI導入は セキュリティ × コスト の2軸で考えると、現実解はつぎの4パターンに整理できます。


① クラウド汎用LLM+RAG
② クラウド独自SLM
③ ローカル独自SLM
④ クラウド汎用LLM+ローカル独自SLM


LLMは大規模言語モデルで、SLMは小規模言語モデルです。意思決定のポイントは、用途、セキュリティ方針 と コストです。


セキュリティとデータの前提

  • 多くのクラウドLLMは「特定条件下ではユーザー入力を学習に用いない」設定・方針を用意していますが、越境や運用実態への不安が残る企業もあります。この場合、国産クラウド(例:さくらインターネット/KDDI等)や閉域ネットワークを選ぶ、もしくは インターネット非接続のオンプレミス(③)を選ぶのが堅実です。
    なお、OpenAI(API/Business/Enterprise/Edu)は“原則学習不使用(デフォルト)”を明言。OpenAI、Azure OpenAIは学習不使用・地域内データ保管(サービスにより保持期間あり)。Microsoft Learn+2Microsoft Learn+2、Google Vertex AIは「事前許可なしに学習へ使用しない」訴求。Google Cloud Documentation
  • 「クラウド全盛のいまオンプレ?」と感じるかもしれませんが、物理分離は依然として最強のリスク低減です(侵入経路を根本から断てる)。


補足:顧客向けの公開用途(CX)だけなら、主に公開情報を扱うため機微度は下がりやすい。一方で、主要プロバイダは出力を使って競合モデルを作る行為を禁止(ToS違反)しているにも関わらず、ブラックボックス蒸留(他社モデルの入出力を収集して自社モデルを模倣学習)など、学習データの扱いが問われるケースもあるため、どのデータをどこで処理・保存するかの方針決めは必須です。


4つの構築パターン(要点と費用感)

① クラウド汎用LLM+RAG(最短で成果/低コスト)

  • 用途:クリティカルではない外向けチャットボット(CX用途)を軸に、内部のコミュニケーションコストの削減(EX)に使えます。
  • 強み:学習不要で初期費用が小さく、実装が速い。RAG(検索エンジン等による外部検索・ベクターDB参照)で“情報”を補強。
  • 弱み:厳格なデータ主権・越境制約には不向き。
  • 費用感:
    初期=数万円~参照データ量に比例(参照データ加工・RAG整備・UI開発)
    月額=汎用LLMのAPI利用費用(従量課金)+クラウド利用費用(従量課金)+運用保守費用

② クラウド独自SLM(出力一貫性を強化/中コスト)

  • 用途:RAGを使った参照モデルでは補えない禁則厳守(禁則違反の発生確率”と“再生成回数”を下げる)が必要なケースには最適。また、データ主権があり、汎用LLMよりもセキュリティ面で安心。
  • 強み:出力一貫性、禁則厳守(脱線/越権出力を抑制)の強化に最適。データ主権あり。
  • 弱み:高性能な汎用LLMには自然言語生成能力で劣る。
  • 費用感:
    初期=数百万~(学習データ加工・SLM構築・UI開発)
    月額=数十万円〜独自SLMは無料+クラウド利用費用(従量課金)+運用保守費用

③ ローカル独自SLM(最高セキュリティ/高コスト)

  • 用途:機微データを閉域で完結。機密データが必要な経営判断を助言させるケース。
  • 強み:内部不正・端末持ち出し・バックアップ媒体など物理/人的リスクはあるが、外部からの不正アクセスなどのセキュリティは最強。
  • 弱み:初期投資・運用保守が重い(サーバ、UPS、冷却、監視等)。
  • 費用感:
    初期=1000万円〜(学習データ加工・サーバハードウェア(本体100万円〜)+SLM構築+UI開発)
    月額=数十万円~DC利用料(固定費)+回線費(従量課金)+運用保守費用

④ クラウド汎用LLM+ローカル独自SLM(最高品質/最高コスト)

  • 用途:高品質な自然文生成が必要な顧客対応だけではなく社内教育、経営支援など全てに活用できる。
  • 強み:セキュリティと表現力のバランス、クラウド依存の分散。
  • 弱み:LLMとSLMの連携・監査の設計がやや複雑(二重運用)。
  • 費用感:
    初期=2000万円〜(③の費用に加えて、高度なLLMとSLMの連携構築費が必要)
    月額=数十万円~③の運用保守費が増額


RAGの価値について

LLMは常時リアルタイムで学習しているわけではありません。RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、ウェブ検索やベクターDBから外部知識を取得してから生成する仕組みで、最新・専門の情報を補い、さらに、根拠提示(出典リンク/引用塊)”の仕組みがコンプライアンス/説得力に寄与する現実解です。②〜④もリアルタイムに新しい情報をアウトプットさせたければ、+RAGの実装をすることができます。
正確に把握しておきたいのは、RAGはあくまで外部情報を取り込む手法であり、モデルそのものが学習する(重みを変更する)わけではありません。 そのため、出力一貫性、禁則厳守(脱線/越権出力を抑制)の強化という点では、モデルそのものがに学習させた言語モデル(SLMやLLM)の方が良質の結果を出します。


「まず社内で使うだけ」の最短手

  • OpenAIのGPTsで社内専用ボットを作れば、月数千円規模からすぐ始められます。
  • ただし 人数課金なので、100人に配ると月40万円規模になり得ます。中長期・大規模なら APIベースで自前UIを作る方が総コストは下がりやすい。
  • ほとんどのLLMのチャットボットは、API利用が可能なので、社員数に比例してアカウント課金するより低価格で抑えられます。
  • API接続で開発して、公開情報中心の外向け用途として設計する場合には機微情報は入れない設計にすべきです。
  • セキュリティとコストに関する最終判断は経営判断(許容リスク×求めるROI)となるかと思います。

導入のハードルについて


新規の書き起こしを最小化しても、音声→文字起こし、紙→OCRテキスト化、既存FAQや営業資料の軽整形などの正規化作業は避けて通れません。導入で一番大きなハードルは社内に眠っているデータの発掘です。AIの本質的な価値は、中に入っているデータに帰着します。企業独自のデータこそ、高い価値を産みAIのパワーを最大化させる鍵を握ります。

参考までに収集したデータの次のステップは、機械可読化することです。以下がその代表的なタスクです。これらの作業はスクリプトで自動化して処理できますが、最終チェックは目視となります。そのコストが大きなハードルとなるわけです。1万問のデータを入れるためには、その1万問を人が目視でチェックする作業が必要だということです。
この作業は、中身を判断する能力が求められるので、誰でもできるというわけでは無いです。誤情報が混入すると、回答品質は直線的に劣化します。

  • 正規化:形式統一(docx/PDF → MD/JSONL)、見出し構造、表・画像の切り出し
  • チャンク設計:実務では200–800トークン帯が一般的、必要に応じてオーバーラップ
  • メタ付与:doc_id/章節/更新日/製品・版/言語/機密タグ
  • 同義語辞書:主要語の言い換え・略語(QAなら各問に最低2語)
  • 重複・ノイズ除去:類似文の統合、壊れURL修正
  • ナレッジ構築:DifyのKB作成・インデックス・前段フィルタ
  • 評価セット(100問)&初期チューニング:Recall/正答率/引用率の測定→閾値調整
  • ガードレール:JSONスキーマ出力+コードノード検証/低スコア時は回答拒否


加工費用(目安)

  • ~500問 または ~100ページ:¥300,000
  • ~2,000問 または ~400ページ:¥600,000
  • ~10,000問 または ~2,000ページ:¥2,000,000

まとめ:最も重いのは「データ」


初期費用の最大ボリュームは学習データの整備です。ここを乗り越えれば、最強のスタッフが“電気代だけ”で働き続ける状態に近づきます。
たとえば、年収1,500万円の優秀人材をヘッドハントして500万円のコストを払うと考えれば、データ整備への投資は相対的に小さいとも言えます。

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